最近は予防接種のワクチンの種類が増えて、それぞれの効能や副作用に加え、接種時期等、非常に複雑になってきており、理解するのが大変と思われている保護者の方々も多いと思います。今日は予防接種についてのエッセンスや、私個人が思うところを述べたい(

つぶやいてみよう)と思います。

予防接種とは、感染症(ウイルスや細菌等の病原体が体内に侵入し、人体に様々な害を及ぼす疾患群)を予防するために、無害化した病原体の一部(ワクチン)を体内に入れることで、その病気に対する抵抗力をつけることです。なぜ予防接種が世界的に必要とされているのか。そこには、遥か昔から感染症が世界中の人類にとって主要な死亡原因であり、常に生命を脅かしてきたという歴史があります。人類は、これらに対抗して生き残っていく道を考えなければなりませんでした。そこで、生命を脅かすような感染症を抑制する、または根絶するためには、予防することが不可欠なのではないかという考えに辿り着いたのです。もちろん例外はありますが、多くの感染症には有効な治療薬がないのが現状で、予防することが一番の治療になると考えられています。実際、いくつかの感染症が根絶され、そのほか多くの感染症も、統計学的に明らかな減少がみられます。

日本でもまだまだ不十分な点はありますが、様々な感染症の予防、軽症化が実現できてきています。しかしながら発展途上の国々ではいまだに予防接種の機会に恵まれず、ワクチンさえあれば予防できる疾患によって命を落とす人々が、世界には300万人以上もいるそうです。私たちはそれらの国々の人々と比べて、まだ恵まれているのかもしれません。

私が医師になって2年目に出張した地方の病院には、当時、定期予防接種に指定されていたワクチンでさえ受けていないお子さんがたくさんいました。20年前の、特に地方では、予防接種に関する認識がかなり薄かったと記憶しています。そのため、今ではあまり出会う事が少なくなった、麻疹、風疹、百日咳等に罹患したお子さんが多数あり、麻疹肺炎で人工呼吸器に何週間もつながれた子や、麻疹脳炎のけいれん重積で後遺症を残した例、及び死亡例、インフルエンザ桿(かん)菌や肺炎球菌による細菌性髄膜炎、百日咳菌による咳で何週間も熟睡できない子(夜間の咳発作(何十回も連続して咳が続くこと)が一晩に30回以上)、さらに百日咳脳症といった重篤な合併症を発症してしまったお子さんもいました。その後の医師生活においても、インフルエンザ脳症を数例経験しましたが、全員、予防接種は未接種でした。こういった疾患に罹患したお子さんのご家族から共通して尋ねられた言葉が「予防接種をうけていれば、こんなことにはならなかったのでしょうか?」というものでした。仮に予防接種を受けていたからといって、絶対にそうならなかったかどうかは定かではありません。ですが、そういった非常に残念な経験から、私個人的には、受けることが可能な予防接種は極力受けた方がいいという考えに至っています。しかしながら、逆に予防接種を受けることで及ぼされる不利益(=副作用)と考えられる事例も少なからず存在する事も認識しています。薬である以上、人体にとっては有益な作用と、逆に害を与える作用が存在するものだと思っています。予防接種は受けることで、自然罹患率(感染症にかかり病気を発症すること)は低下しますが(=死亡率も低下)、受けていなければ罹患するはずのない障害が引き起こされる危険性も潜んでいます。加えて、任意接種の場合は、金銭的な問題も絡んでくるでしょう。

結局のところ予防接種は確率論であり、受けた場合の罹病率(ワクチンによる副作用も含む)の方が、受けなかった場合の罹病率(ワクチンによる副作用はない)よりも低いので、受けた方がよいとされているのです。確かに、受けなければ余計な罹病(=副作用)がないというのも理解できなくはないですが、私ならトータルで見て罹病しない確率が高い方(=予防接種を受ける方)を選びます。

 

現在は情報が氾濫しており、一体何が正しくて、何が間違っているのか判断するのが難しくなってきています。予防接種についても同様で、予防接種反対派の意見も多々見られるため、受けた方がいいのか、受けない方がいいのかわからないというご家庭もあると思います。保護者の皆さんが予防接種を受けるか、受けないか迷っている場合は、予防接種に対して「賛成」か「反対」かではなくて、まずは「正確な知識および認識」を自分がもっているか考えてみてください。そして、手にした情報が「きちんとした科学的根拠やデータで裏打ちされたものかどうか」を見抜くことが大切だと思います。書籍にしろwebページにしろ、そこで述べられている結論が「本当に充分検討された裏付けがあるものなのかどうか」判断したほうが無難ですし、「良い」「悪い」、「好き」「嫌い」の尺度で議論できるような単純な問題ではありませんので、断定的な結論には注意が必要です。なぜなら、強烈なインパクトを与える情報のなかには、発言者のあくまで個人的な考えや思想(極端な場合は根拠に乏しい憶測や想像)が反映されていることが多々あるからです。まずは、インターネット等の個人的な結論や考えをうのみにするのではなく、予防接種のメリット、デメリットの両方を客観的にご家族で検証して、話し合い、不明な点や不安なことは直接医師等に相談しながら、最終的に納得できる結論を導き出すのがよいと思います。予防接種を受けることも、受けないことも、どちらも医療側から強制されることではないのです。