「子どもが生まれたら犬を飼いなさい」というイギリスのことわざをご存知でしょうか。実際誰が言ったかも、本当にそのようなことわざが昔からあるのかもはっきり証明はされていないらしいのですが、以下の内容で紹介されています。

子どもが生まれたら犬を飼いなさい

子どもが赤ん坊のとき、子どものよき守り手となるでしょう

子どもが幼少期のとき、子どものよき遊び相手となるでしょう

子どもが少年期のとき、子どものよき理解者となるでしょう

そして子どもが青年になったとき、自らの死をもって子どもに命の尊さを教えるでしょう

犬が大好きな私の娘が、犬の殺処分などの問題について自分なりに調べたり考えたりしているのを知ったのがきっかけで、私自身が子どもの頃に犬を飼った時の思いを巡らすことになりました。そこで今回は、犬と子どもの関係について書いてみようと思います。

私が小学生の頃のことです。姉とは年齢が離れているため、気がついたときに姉は家を離れており、母親も生協組合員として忙しく活動していました。父親は午後三時から出勤し、帰りはいつも夜の10時を過ぎていました。家は学校から遠くて周囲に友人がいなかったため、帰宅してもひとりで過ごすことが多かったように記憶しています。そんな中、隣に引っ越してきたご主人が愛犬家の方だったのですが、犬が大好きだった私は、しょっちゅう隣家の犬と遊ぶようになり、そうこうしているうちに、子犬を譲ってくれる人を紹介してくれるという話になりました。両親に話したところかなり反対されましたが、隣家のご主人の助け舟により「きちんと面倒をみるなら」という約束で、中学に入学したときになんとか犬を飼うことを許してもらうことができました。それ以降、頭の中はいつも犬のことばかりで、早く帰って愛犬(ロッキー)と一緒に遊びたいと思っていましたし、寝る時も一緒でした。ずいぶん甘やかして育てたので、私が怒っても知らんふりを決め込むような賢い犬に育ちました。高校時代は、両親との約束を忘れて(?)、散歩など親任せになってしまった時もありましたが、ロッキーがいてくれることで、自分の生活にものすごい潤いや励みが出たと記憶しています。悩み相談をすることもありました。医師になるか、獣医師になるか、最終的には散歩途中でロッキーに尋ねて決めたようなエピソードもあります。そんなかけがえのない存在であったロッキーは12歳まで生きました。いろんなことを教えてくれたり、与えてくれたロッキーとの時間は私にとって、生涯忘れることのできないものです。さきに述べたことわざの内容のごとくだなあ、としみじみ思います。

犬が子どもへ及ぼす影響としては、ことわざに示されていること以外にもいろいろあるようです。具体的には、命に対する共感や責任感が早くから芽生えるとか、表情筋の量が多くなり表情が豊かになるとも言われています。さらに、犬を飼っている家庭では子どもの感染症や喘息が少なくなったという報告もあるようです。その他、犬を飼っている家にいる小学校就学前の子どもは、ひらがななどの文字を読める割合が高いとか、犬を介することでコミュニケーションが円滑になり、社交性(社会性と言ってもいいかもしれません)が高まったりする場合もあるようです。これは、どの子にも当てはまるということではないと思われますが、以上に述べたようなよい影響を及ぼしていることが実際にわかっています。

子どもと犬が関わることで相互の利益となるプログラムがアメリカにあります。これはShelter Buddies Reading Program(シェルターの仲間に本を読もうプログラム)と名付けられたもので、Human Society of MissouriというNPO団体が行っています。内容は、捨てられたり、虐待されたなどの理由で保護された犬たちに向かって、子どもが本を音読するというものです。子どもが本を読むことに自信を付けることができるのはもちろん、臆病な犬が人間になれるきっかけができ、子どもの音読を聴くことで犬の気持ちが落ちつく等の成果がみられるようになっているそうです。人になれ落ち着きを身につけた犬が増えることは保護犬の譲渡率の向上につながります。子どもたちの方も、犬たちと関わることで動物保護への興味、他者への共感などを身につけることができます。犬にとっても、子どもにとっても非常に相互利益の高いプログラムであるということで注目されているようです。

そのほか、子どもと犬の関わりでドッグセラピーというものが注目されています。ドッグセラピーの役割というのは、重い疾患を持ち長期の入院生活を強いられる子どもたちの心のケアや治療の補完を担うこと。発達に問題のある子どもたちの対人コミュニケーションの仲介をおこなうこと。また、心に傷を負った子どもたちの心を癒すような役割も担います。また、学校や保育園等を訪問して命の大切さや自然との関わりを知るきっかけを作ったりする役割などを、特別に訓練された犬たちが担ってくれるそうです。なぜほかの動物に比べて犬がよいのでしょうか。

・人との共生という意味で最も歴史がある(1万年以上の関わり)

・異種の受け入れが寛容である

・情緒レベルが非常に高い

・社交性が高く、ストレスを感じにくい

・人と接するのに時間と空間の制約が少ない

・霊長類以外で目を見て相手とコミュニケーションができる唯一の動物

・学習能力・従順性が非常に高い

犬には上記のような特徴があり、きわめて良質のセラピー効果を生むことが確認されているようです。これは子どものみならず、成人への効果も確認されており、認知症や精神疾患の治療の補完や、受刑者の更生プログラムに取り入れられたりしています。

以上のように、子どもと犬はお互いが非常によい影響を与える関係だと思われます。これは、両者が純粋で無垢な存在同士であるため、信頼関係を築きやすいということのようです。

もちろん、犬はちょっと苦手であるというお子さんもいると思います。犬に対するアレルギーで大変な思いをしたり(あるいは犬が好きだけどアレルギーがあって飼うことができない)、吠えられたりして怖い思いをしたというような、場合によっては悪影響を及ぼすこともあるでしょう。ですので、好影響のみを強調して、手放しで犬との関わりを押し進めることはできないと思います。

ただ、犬に限ったことではありませんが、命あるものとの関わりが深まれば、それらを大切にしたいという気持ちもはおのずと出てくると思いますし、結果的にその気持ちが、人間に対する優しさや思いやりにつながっていく可能性はおおいにあると思うのです。

以下の本はクリニックのスタッフも読んで学んでいるところです。
アニマルセラピーに興味を持っていただけた方の参考になればと思います。

・「車いすの犬訓練士ものがたり〜リードは心の伝達線〜」中村 幹(著)

・「名犬チロリ 日本初のセラピードッグになった捨て犬の物語」大木トオル(著)

・「動物と子どもの関係学〜発達心理からみた動物の意味」ゲイル・メルスン(著)

・「知りたい!やってみたい!アニマルセラピー」川添 敏弘(著、監修)

・「アニマルセラピー〜動物介在看護の現状と展望〜」熊坂 隆行(著)

 

玉穂ふれあい診療所の2代目セラピードッグ、リリーと、こもれびこどもクリニックのセラピードクター(にはほど遠いかな・・・)の僕
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